『SDGsのすごい会社』で紹介されたパン屋は“サステナブル”な働き方を開拓した

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『SDGsのすごい会社』という書籍で、広島にある「ブーランジェリー・ドリアン」という素晴らしいパン屋を紹介している。

普通のパン屋は朝早くから夜遅くまでほぼ終日働き通し。

プライベートなどなく短い睡眠時間を取ったらすぐに翌早朝に起きてパンをこねこねする毎日の繰り返しで、それはもう人間というより「パン作りロボット」のような生き方と言える。

ジャムおじさんのようにそれが生きがいで楽しいというならいいが、多くのパン屋さんはそんな日々を週休1日・・・中には無休で毎日疲弊しているのが現状なんだ。

ロボットで良いなら、今はAIで完全自動化状態で蕎麦屋が運営している店が実在する時代なんだから、パン屋もAIに任せてしまえばいいという話にもなる。

だがAIで蕎麦は作れてもパンは難しいのが現状で、結局人間の手でコネコネして焼くしかないのが実情でもある。

 

しかし、「ブーランジェリー・ドリアン」は長時間労働もしなければ、週休3日、夏季休暇は40日も取っている。

それでもパンは売れ、コロナ化で実店舗は開けなくなっていてもネット通販で売り上げを伸ばしているのである。

さらにすごいことに、多くのパン屋は売れ残ったパンを捨てている「フードロス」行為に明け暮れているが、この「ブーランジェリー・ドリアン」は売れる分だけ焼いているから売れ残りもない。

 

働き過ぎれば精神的にも身体的にも「持続不可能」になる。

フードロスも地球温暖化に繋がるだけでなく、昨今のウクライナ・ロシア戦争で世界的に小麦不足になっている中で食糧危機に繋がる恐れもあり、地球規模で「持続不可能」な事態に繋がりかねない。

 

パン屋が実はSDGsからかなり遠い存在である状況の中、この「ブーランジェリー・ドリアン」はあらゆる意味で「サステナブル」なモデルを示してくれた。

働き方改革だけでなくフードロスまで実現したこの店のきっかけは「日本とヨーロッパの違い」だった。

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「働けどはたらけどなお、わがくらし楽にならざり」な日本の現状

石川啄木じゃないけど、今の日本の労働者の多くは「いくら働いても生活水準が向上しない」とあがき苦しんでいる。

長時間労働、休日出勤、果てはパワハラセクハラ・・・そんなものに耐えながら働き続けても賃金は上がらないし自由な時間も増えない。

日本人の平均年収は30年以上400万円台を上がったり下がったりするだけで全く上昇していないどころか、リーマンショック以降は90年代より低い水準の「低空飛行」が続いている。

さらに震災・コロナ・ロシアのウクライナ侵攻と経済が悪化することばかりな一方で、上がり続ける各種税金に加え近年は物価もどんどん上昇し円安は加速。

多くの日本人が「働いても報われない」と感じている閉塞感極まりない状況下で、それでも働かざるを得ない方がたくさんいるのが現状なんだ。

さらには45歳定年制でとっくに消えていた「終身雇用」=「生活の確保」すらもう決定的に崩壊してしまっている。

「サラリーマンは気楽な稼業」などと謳われた高度成長期やバブル期とは別の国のような現状である。

 

そして、コロナ化でリモートワークが広がりその分通勤時間がなくなってラクになったと思われがちだが実情は違う。

自宅が職場になったことで始業・昼食・終業の線引きがなくなり、結果的に会社通勤していた時より業務時間が長くなってしまっている現状がある。

 

 

  • 自宅にいるからと普段仕事をしていないような早朝から仕事をし
  • 普段昼食を取っているのに昼食も休憩も取らず仕事をし
  • 普段仕事を終えている時間でも作業を仕事を続け
  • 普段仕事をしない土日祝日も仕事をする

リモートワークになったことでこんな形になり「かえって仕事の負担が増えた」形になってしまった労働者が多くいる現実を多くの日本人が気づいていない。

 

特に、「義務感」や「責任感」の強いタイプにパワハラ気質の会社は巧妙に「自宅にいるんだからもっと仕事できるはず」という想定でそれまで以上に負担の大きい仕事を振って、結果的に「コロナ前より働かせる」形に持って行っているのである。

このままじゃ「リモートワーク過労死」が発生するのも時間の問題。

そしてもちろんリモートワークも何もない現場組も疲弊しているのは同じだ。

それが・・・たまらない。

 

「ブーランジェリー・ドリアン」も同じだった。

赤字続きで大きな借金を抱えた店をリニューアルオープンして大繁盛させるものの、それでも赤字。

人件費やその他コストが経営を圧迫し、給与カットでそれでも残った従業員とフル稼働で「働く時間をマックスに伸ばすこと」で広島の人気店となり、地方発送・レストラン卸・デパートイベント出店などあらゆることを尽くして多額の借金を返済することはできた。

 

しかし、それでも利益はプラマイゼロ前後。決算期には3万円程度の黒字か赤字という結果。

限界まで働き、広島の人気店になっても大きな利益を得ることができず綱渡りの日々・・・これでは当然自分も従業員も精神的・身体的に「アンサステナブル」な状況に陥っていた。

そんなある日、店主の田村陽至さんはフランスへ向かった・・・。

 

労働時間も短く休暇も多く毎日の食事時間がやたら長く仕事の合間にワインを飲みタバコは吸いまくりいつものんびりゆったり(日本人の感覚で言えば“チンタラ”)歩いているのに、いいものを食べ・いい家に住んで・いい暮らしをして平均寿命が長く出生率も高いフランス人

 

馬車馬のように働いても経営利益がほぼ残らない状態の田村さんがなぜ店を1年半も休業にしてヨーロッパ各地のパン屋で働くという余裕があったのかはよくわからないが、問題はそんなことじゃあなかった。

 

田村さんがフランスで見た光景は日本と真逆の世界だった。

根本的に「時間の流れ方」が全然違うのだ。

ゆっくり食べるし、余暇もたっぷり楽しんでゆったりと時間が流れている。

休みはすごく多いのにいいものを食べ、いい家に済み、いい暮らしをしている。

 

実際フランス人の労働時間は週平均36時間ほどで、日本の平均である43時間より短いし、日本の「43時間」という数字は多くの労働者が暗黙に課せられている「サービス残業」や「休日出勤」など「見えない労働時間」が含まれていない数字だから、実際の平均労働時間はさらに多くなると想定され、両国の労働時間の差は相当に大きい。

 

それでいてワインを浴びるようにのみ、仕事合間の昼休憩にも当たり前のようにワインを飲む。

日本だったら昼休憩に日本酒飲んで赤い顔して酒の臭いをさせながら貴社してたらすぐにクビだろう。

 

酒量も多けりゃタバコも良く吸う。先進国では屈指の喫煙率で、33.4%。

日本の20.1%やアメリカの23.0%よりかなり高い。

 

そんなに酒ばっかり飲んでタバコをスパスパ吸ってるチェーンスモーカーだらけならさぞかし健康状態が悪いのかと思いきや、日本人の死因3位に該当する心臓病の死亡率がかなり低い「フレンチ・パラドックス」という結果である。

 

これは赤ワインに含まれるレスベラトロールなどのポリフェノールによる抗酸化作用で脂質過酸化を防ぎ,動脈硬化を予防していることが原因と考えられる。

平均寿命も長く、長寿のギネス記録(122歳)もフランス人女性である。

 

ホントに赤ワインのレスベラトロールだけでそこまで健康になれるもんなんだろうか?

フランス人の1日の食事時間は1日平均135分と世界最長だ。

食事の内容自体「食前酒⇒前菜⇒メインディッシュ⇒チーズ⇒デザート」といちいち時間のかかる構成になっている。

日本人なら昼休憩の昼食など忙しけりゃきつねそば(メインディッシュ)一杯すすりこんでさっさと帰社というお方も多いだろう。

さらにフランス人は食事時間も大勢と食べることが多く、めっちゃ喋る国民性だから、毎回の食事がちょっとしたプチ・パーティ状態だ。

常に何かに急いでいてイライラしてせかせか歩いて、車に乗ればチンタラ走ってる前走車に苛立ち煽り運転をする日本人と違い、のんびりゆったり歩きワルツのようなゆったりした時間がそこには流れている・・・。

そして余暇も休暇もしっかり取り、学生にもバカンスなどの長期の休暇があり、家族・恋人・友人と過ごす時間も長く「人と人の繋がり」が深ければ、出生率も高い。

そんな「心の余裕」がフランス人の健康状態を育んでいる側面もあるのではないだろうか?

 

 

アンサステナブル状態のパン屋オーナーの人生を変えたオーストリアのサステナブルなパン屋

 

田村さんはフランスの学生ビザで奥さんと入国し、フランスの学生に認められているバカンス(

長期休暇)を利用してヨーロッパ各地のパン屋で1~2週間の研修に回っていた。

 

その過程で田村さんの人生を変えるオーストリアにある「グラッガー」というパン屋と出会い、そこは1日4時間程度の労働で極上のパンを作り、しかもそれを安く販売することができていた。

 

なぜそれが可能かと言えば「100点の材料を使い70点の手間(手抜き)でパンを焼き、70の値段で売っている」ということ。

材料だけ最高のものを仕入れて、経営を最も圧迫する人件費を削減し、自分自身の働く時間も極限まで切り詰め(手抜きをして)、安い値段で売ることで経営を回しているということだ。

 

それでいて利益はしっかり稼げていて、その上作ったパンは時間をかけて日本で焼いていたパンよりずっと美味く、自分たちが勝てていることは何1つないと田村さんは衝撃を受けたのだ。

 

4時間しか働かないから、帰りに美術館に寄って、食事をして、酒を飲んで帰宅してもまだ時間に余裕がある・・・日本人では考えられないような生活スタイルを実現していることも田村さんにはカルチャーショックだったようだ。

 

プライベートも含め自分の人生と等価な「時間」を100%に近いほど切り売りして消耗し続ける日本人との大きな違い。

 

この大きな違いが10年・・・20年と続いたら取り返しのつかない人生の違いになってしまう。

 

そう考えた田村さんは帰国後に奥さんと2人だけで店を再オープンさせ、粉は国産のオーガニックと天然酵母を使用し、薪窯でたった3種類だけのパンを焼くスタイルで新スタートを切った。

 

普通パン屋に行けば数十種類はあるような様々なパンが置かれていて、常に誰かがパンを焼き続け「フル供給」状態が続き、人気のパンほど焼くのに手間がかかっていた。

 

そのスタイルをやめ、田村さんが焼き奥さんが売るというスタイルで3種類だけのパンを売ったところ、以前では1日10個も売れなかった何の具もないカンパーニュが70個も売れるようになったとのこと。

 

以前はチーズやらウインナーやらベーコンやらあれこれ具を入れなきゃ売れなかった状態が、何の具もないパンが「パン本来の風味」だけで売れるようになったわけで、様々な具の仕入れも不要になり原価率も下げることができたのである。

 

ネットで定期購入も始め売れ残りもなくなり、フードロスのない「捨てないパン屋」になることもできて、利益も残りプライベートも充実する理想の状態を手に入れたのである。

 

これは単純にパンが美味しくなっただけでなく、選択肢が3種類だけになったことで購入者の購入率が高まったこともあると考えられる。

 

選択肢が多すぎると選べずに何も買わずに帰られたり、「本命」のパンに手を出してもらえず店の魅力に気づかれずに終わってしまうデメリットがある。

 

しかし、3種類の「本命パン」だけに絞ったことで、店を訪れた購入者は必然的に何かを選び、そしてその極上の味に気づいて「ファン化」してしまうわけだ。

 

事業によって業態は様々だから、このやり方がそのまま当てはまる事業の方が少ないことは言うまでもないが、問題は「無駄」を省くという根本的な考え方だ。

 

田村さんは手間のかかるパンをたくさん作って店に多くの人を呼び込んで売れる状態を維持するために、多くの労働力と人件費を要して疲弊していた。

 

しかし、極力無駄を省いた経営スタイルにスリム化したことで、パン屋の問題であるフードロスまで解消し、“持続可能”をさらに上回る「理想の人生」を手に入れることができた。

 

この事例は世の中の多くの経営者にとって、今の事業に無駄はないか考えてみる非常に良い事例ではないだろうか。

 

もう従業員を「コキ使って」でも利益を追求する経営スタイルでは会社は維持できない時代になっている。

まずは働く人を幸せにできなければ、会社自体も利益を生み出せない時代になっていることに気づいていない経営者はあまりに多い。

 

この『SDGsのすごい会社』という書籍や、この記事で紹介したオーナーの田村陽至さんの著書『捨てないパン屋』は大いに読む価値があるので、一読を推奨しておく。

 

改めて言うが、会社を維持させたければまず「会社の利益」に目がいく考えが既に間違いであり、そこで働く人の幸せを最優先する会社こそ、これからは多くの利益を生み出し、経営を「持続可能」にすることができると断言する。

 

ありがとう

 

 

 

 

 

 

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